低山周遊ハイキングとアジサイの名刹 世界三大料理を味わう

梅雨の中休みにしては夏本番を思わせる暑さの中、奈良県北西部、生駒山系に並び南北に延びる矢田丘陵周辺のハイキングをご案内してきました。出発は近鉄生駒線・南生駒駅。大阪府につながる国道308号を歩いて、矢田丘陵の榁木峠(むろのきとうげ)を目指して歩きます。この風景は榁木峠手前の足湯付近から見た生駒山の眺めです。山頂部のたくさんのテレビ塔と左肩の鞍部にある暗峠がはっきりと見渡せます。今歩いている道はかつて暗越奈良街道と呼ばれ、大阪から奈良への最短ルート、また伊勢街道へつながる道として多くの旅人が利用しました。現在も現役の主要道ですが、ご存じの方もあるように非常に狭い区間や、急こう配の区間が連続するため、国道をもじって酷道と言われたりします。


矢田丘陵を越えて住宅街におりると近年全国的に大変有名となった富雄丸山古墳があります。この古墳では数年前、280㎝を越える鉄製の蛇行剣と盾形の大きな銅鏡が発掘され、前代未聞の大発見と報じられたことは記憶に新しいところです。何がそんなにすごいのかというと、古代日本には文字がなかったため日本の古代史を知るには中国の歴史書から情報を得る必要がありますが、3世紀の邪馬台国卑弥呼の時代から5世紀前半の倭国の五王の時代までまるまる1世紀以上、日本に関する記述がないため4世紀は【空白の4世紀】と呼ばれています。この富雄丸山古墳は4世紀後半の造営と考えられ、空白の4世紀の手がかりを得ることができる今回の発掘は古代史ファンのみならず世間の注目を集めました。昔はこの古墳も取り崩して住宅街になる計画もあったのですが、調査研究が続けられた結果の大発見となりました。現在は簡易なフェンス越しに発掘現場を見学することができます。古墳から住宅街を歩いて田園地帯に入ると、水田が続く日本の里山の原風景の中を歩くことができます。近頃はこのような田舎の道も少なくなりました。



田園風景を抜けると奈良県立大和民族公園に入ります。こちらは奈良県各地から移設された古民家の中に入って昔の暮らしぶりを想像することができ、なかなか見ごたえのある展示です。ただ現在、屋内の資料館は改装工事中で見学することはできません。


続いて矢田神社へ。こちらの神社は神話の時代、天孫降臨に先立ち大和国に先遣された饒速日命が宮の造成にふさわしい場所を選ぶため、空中の磐船から矢を3本放ち、2本目の矢が落ちた場所に作られました。その由来によって航空関係者の参拝が絶えない神社です。楼門の上部部は木製のプロペラが飾ってあり、これは満州事変の際現地で作戦に用いられた戦闘機のプロペラだとのことです。


いよいよ今回のハイキングの目的地、矢田寺の門前まで到着しました。今回の昼食は奈良県唯一のトルコ料理を提供する、アラ・トゥルカです。ガイド自身も入店するのが初めてで、これまで世界各国を旅してきましたが、トルコ料理を食べた記憶がありません。調べてみるとトルコ料理は中華料理・フランス料理に並ぶ世界三大料理に選定され、その理由はアジアとヨーロッパをつなぐトルコには様々な食材や調理法が集まったためとされています。トルコ料理といえば屋台やキッチンカーで提供されるトルコアイスやケバブなどが思い浮かぶのですが、レストランできちんとしたメニューとしていただくのは初めてです。



今回はガイド含めて3名のため、3種のランチをひとつずつ注文し、シェアし合うことにしました。トルコ料理とは勝手に香辛料の利いた味と想像していたのですが、非常に食べやすい優しい味付けで、しかも奥深い味わいの料理だったので、どのメニューもおいしくいただくことができました。平日にもかかわらず店内はほぼ満席、ごちそうさまでした。



いよいよアジサイの矢田寺に入山します。入口で拝観料を支払い、長い石段を上ると境内に入ります。アジサイの大群落を見学するにはコースが定められていて、回遊式に庭園が整備されています。




大小さまざま色とりどりのアジサイを見て回りましたが、ここ数日の猛暑にやや元気がない様子のアジサイが多かったような気がします。ところでアジサイは日本原産の植物で江戸期以降日本を訪れた外国人が広く世界に紹介したことはご存じでしょうか。日本に滞在した医師で博物学者のシーボルトもそのひとりで、昔は珍しい植物でヨーロッパなどの植物学会で珍重されたようです。現在では世界中で品種改良されたアジサイがたくさん出回っています。矢田寺のアジサイを拝観する参拝者も外国の方が意外と多く、花を観賞するのは万国共通だとあらためて感じました。



帰路は矢田丘陵最高点・矢田山の山頂を経て、南生駒へ戻りました。大変な暑さの中、歩いていただいたご参加のお二人、大変ありがとうございました。今後またこのようなハイキングとグルメを交えた山旅もご紹介いたしますので、まだご参加したことのない方もどうぞご期待下さい。
山旅ガイドサービス 井上