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【ガイド記録】2025/9.21 ホソバノヤマハハコ大群落 三峰山


高見山地の三峰山 秘密のお花畑へ

朝晩過ごしやすくなってきたこの頃、奈良と三重県境の高見山地・三峰山をご案内しました。三峰山というと日本三百名山・関西百名山で冬季の霧氷で有名な山ですが、初秋に訪れると山腹の一部にホソバノヤマハハコ大群落が見られます。狭い範囲の大群落ですが、その密生具合はおそらく他に類を見ないほど。お花の咲き具合をみて急遽募集させていただきましたが、2名のご参加を得てお花見山行となりました。

前夜に活発な雨雲が通過し、当日朝も奈良を中心に降雨がありましたが、雨雲の動きは早く、登山口に到着する頃には青空が見えていました。今回我々が出発する登山口は三重県側のゆりわれ登山口。この登山口までの林道は、なかなかに荒れた道で落石や木の張り出し、道路の陥没があり、運転に非常に気を使います。しかし駐車場は広く立派なバイオトイレも整備されていて快適そのもの。整備された松坂市に感謝です。準備体操を終えて出発すると道はすぐに岩礫の急登、植林帯へと変化していきます。やがて人工林が終わって自然林になると、ちらほらと秋のお花が顔を見せてくれました。

まずお花が小さくピントを合わせずらいマツカゼソウ。山地の薄暗い林床に生え、夏から秋にかけて白いお花をつけます。私はこのお花はキンポウゲ科と思っていたのですが、調べてみるとミカン科唯一の草本ということで、葉をもむと独特の香りを放ちます。ヤマホトトギスは咲いたばかりのようで小さな株しかありません。名前の由来は鳥類のホトトギスの胸の斑点模様ににたものがガクに出ることによるとのことです。

続いてたくさん群生していたのがトリカブト。代表的な有毒植物で全草にアコニチン系アルカロイドという猛毒を含みますが、特に根の毒素濃度が高くなっています。美しい花には毒があるという諺の通り、薄暗い林内で目の覚めるような青い花を咲かせます。猛毒ですが適正に処理すると漢方薬の附子(ぶし)になります。附子の薬効は鎮痛・強心・代謝亢進、利尿などの薬効があり、体を温める作用を持っていますが作用の強い薬なので処方には医師の診断が欠かせません。次に淡い紫色のお花をつけるミヤマママコナ。この写真では見づらいですが花弁の下部に白い斑点がふたつあり、それが米粒のように見えることから飯子菜という名前がつきました。これまで紹介した花々はホトトギスを除いて、今繁殖が問題になっているニホンジカが食べない不嗜好性植物です。三重県の山ではシカの繁殖が大きな問題となっており、自然林の林床は明るくすっきりとしてきれいに見えますが、それはシカが林床の植物を一掃するほどの食害を与えているということで、僅かに残っているのはシカが苦手とする植物ということになります。

稜線に出ると日当たりが良くなり、今回の山行の目的であるホソバノヤマハハコが見えてきました。登山道の両脇に青磁色の葉を持つ群落が続きます。ヤマハハコの西日本型でその名の通り葉が細いのが特徴です。

ホソバノヤマハハコの花道を過ぎるとアセビとリョウブが多い道が続きます。その登山道上にはたくさんのアキアカネが漂っていました。

そしていよいよホソバノヤマハハコの大群落へ到着。山腹が崩壊して日当たりが良くなった斜面に一面にお花を咲かせています。狭い斜面にこの密度、これほどの大群落にはなかなかお目にかかれません。キク科のホソバノヤマハハコはたくさんの小さなお花が集まっている集合花。このお花畑の上を通る風には微かに芳香が含まれていたように思います。3人でしばらくこの光景に見入っていましたが、山頂を目指して再出発。

展望が次第に開けて芝生のような広場に到着するとそこは八丁平と呼ばれる分岐です。ちょうどお昼の時間になったのでランチタイムを取りました。正面には関西百名山の迷岳、さらに南には大台ヶ原などが連綿と続きます。素晴らしい眺めを見ながらの昼食をゆったりと楽しみました。

三峰山山頂に到着すると北方の展望が開けて俱留尊山、古光山の稜線と尼ヶ岳、大洞山も眺望することができました。

山頂から八丁平を経て下山の途中、最後に秘密のポイントからホソバノヤマハハコの大群落を眺めて帰路につきました。今回は天候とお花に恵まれて素晴らしい山行となりました。ご参加のお二人は直前の急な募集にもかかわらずご参加いただきまして、誠にありがとうございました。またこのような旬の山旅へとご一緒しましょう。

山旅ガイドサービス 井上


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