世界遺産・修験道の聖地 大峰奥駈道へ

吉野から熊野へ 大峰奥駈道全山縦走のスタート
古く飛鳥時代から奈良時代にかけて活躍した実在の呪術師・役行者が開創した修験道において、熊野本宮大社から吉野を結ぶ山岳縦走路を大峰奥駈道と呼びます。険しい山々の稜線をつなぐ奥駈道は総延長100km以上とされ、現在でも修験道を志す山伏や登山愛好家を誘引して止みません。2026年はこの大峰奥駈道を縦走したいという依頼を受けて、6回に分けて走破する計画を立てました。その第一回目が今年、春の桜の時期が終わった吉野を出発し、洞川へ向かう1泊2日のプランとして実現しました。


大峰奥駈道は熊野本宮から吉野川まで72の靡きという修験者が祈りを捧げるポイントがあり、熊野本宮大社を1番とし、吉野川の柳の渡しを72番としています。1番から72番へと北向きの縦走のことを順峯(じゅんぷ)、その逆を逆峯(ぎゃくふ)といい、現在では逆峯の順番で奥駈道を縦走する人の方が多くなっています。私たちは逆峯のコースを取り、今回は近鉄吉野線・六田駅を出発し、吉野川の河岸にある柳の渡しを見てスタートしました。



吉野川にかかる美吉野橋を渡って古い街道を少し歩くと、初めての登りが現れます。その名も一之坂。吉野川沿いの集落から山道に入る最初の坂です。これから熊野本宮大社まで何千何万の坂を通過するのでしょうか。その最初の坂を登っていく静かな感慨に耽りつつ、ゆっくりと歩みを進めます。しばらく坂を上ると車道に出て少し寄り道すると、役行者の石像を祀ったお堂があります。これはかつて吉野川河岸にあったものを坂の上に移築したものだそうです。人通りもない眺めのいい林道にあるお堂ですが、きれいに管理されている様子。これからの旅の無事を祈るためにお参りしました。それから吉野神宮へ至る登山道を歩きますが、今では通る人も少ないようでかなり荒れていました。古来、修行の道として茶屋のいくつかでもあったであろう広い道は、落葉と倒木に覆われて静かに自然に還ろうとしているようでした。薄暗い森の中の道を抜けると急に空が開けて吉野神宮へ到着。鎌倉時代に吉野に南朝を開いた後醍醐天皇ゆかりの古刹です。



吉野神宮に参拝した後は下千本を通り抜け、金峯山寺蔵王堂にて金剛蔵王権現の特別御開帳に伺いました。大迫力の日本最大秘仏を拝むのは、いつ来ても新たな感銘を与えてくれます。


本日の宿は上千本にある民宿太鼓判で桜の観光が終わった静かな環境で一晩を過ごしました。当ガイドは奈良在住ですが吉野で宿泊するのは初めてで貴重な経験となりました。美味しい食事と大浴場での入浴が明日への鋭気を養ってくれました。
吉野山から奥駈道を縦走して洞川へ



2日目は早朝に宿を出発し、静かな奥千本を登って吉野山最高峰の青根ヶ峰へ。青根ヶ峰から先は、すれ違う人もいない道をどんどんと進んでいきます。



林道と登山道を交互に歩き、急登をひと登りすると今回のコースのちょうど中間点付近にあたる四寸岩山のピークへ到着。広い山頂で昼食休憩を取り、宿で作ってくれたおにぎり弁当をほおばりました。適度な塩気で大変美味しくいただきました。その後、登山道はアップダウンを繰り返しながら続いていきます。道沿いにはハシリドコロという毒草がたくさん。近年増えているニホンジカが食べない毒草が登山道に増殖しているのです。ちなみにこのハシリドコロという植物には神経系の毒があり、誤食すると錯乱して走り回るほどの毒の強さから名が付きました。古代にあっては呪術師や祈祷師、巫女などがこの植物を調製したものを服用し、神仏の御宣託を得るためにあえて昏睡状態になったということもあったようです。



四寸岩山から下ると足摺小屋を通り過ぎ、しばらく道を下っていくと十数人の山伏の団体が上がってくるのに出くわしました。ちょうど足摺小屋の小屋開けの行に来たとのことです。立ち話をしていると古老の行者からこの先大天井ヶ岳付近にはクマが出るから気を付けろという助言を頂きました。林道に出ると先ほどの団体の車を見て、再び登山道に入ろうとすると足元に黒い塊を見つけて拾ってみると、ほのかな臭気を纏ったキヌガサタケでした。グロテスクな見た目ですが、欧米では料理に珍重される高級キノコです。なかなか立派な個体だったので持って帰りたい衝動に駆られましたが、元にあった場所に戻して先を進みます。




二蔵宿の山小屋を通過してからは急登に次ぐ急登をこなして、今回のコースにおける核心部、大天井ヶ岳に無事登頂。その後も険しい急下降を無事に通過して五番関のトンネルへ。ここからタクシーで洞川温泉へ移動して、温泉に入って汗を流して近鉄の駅から各自帰着の途へ着くことができました。昨年から計画してきた大峰奥駈道縦走プランの第一回目ということで、無事に初回を終えることができました。ご参加の皆様、大変お疲れ様でした。今後の縦走プランも安全第一で無理をせず大峰奥駈道を歩いて熊野本宮大社を目指しましょう。
山旅ガイドサービス 井上
